広く公共的課題の設定、分析、提言を目的に、計画行政の各分野にたずさわる研究者、行政担当者、実務者等による学際的研究成果の発表と相互交流を行うことを通じて、理論と実践を統合する学問体系の確立をめざす

東日本大震災復旧復興に向けた「提言」

東日本大震災の復興に向けた政策提言

  原 勲(社団法人 北海道未来総合研究所)

 この大惨事はまさに国家の危機であり、国家(政府)が全力を挙げて取り組まなくてはならない。国民もまた旧来の発想や生活習慣を大きく変えなければならないだろう。
 そこで第1に国家の政策への取り組み方について提案する。まず取り組むべき中央政府が官邸や霞が関にいて現場を直接認識していない現状を打開しなければならない。中央の意向を直ちに震災現場に伝え又現場の声が直ちに中央に伝わらなければならない。今のように危機打開が遅々としていては事態を悪化させるだけである。そのためには首都を仙台に移転させるのが良い。実は日本の首都は平安京以来4百年毎に東方へ遷都してきた。だからまだ日本は江戸時代でありその遷都は遅きに失したともいえる。遷都案がことし消えるといわれているが復活すべきである。国会や省庁舎はプレハブ建築でやれば費用はそれほどかからない。これで東京はニューヨークになり、仙台がワシントンになるのである。しかし日本の一極中枢の危機を打開し分権国家への道と日本再生の両方を実現できる。もしこの案がどうしても進まないのであれば「復興庁」を仙台に置き、現地で再生への指揮を取る。行政組織を屋上に重ねるだけという批判があるようだが国家最大の危機が東北にあるのだから役所の縄張りを言っている場合ではないはずである。このような国家の危機に国家が挙げて対応したのが明治初期黒田清隆によって推進された北海道開拓使庁の設置である。予算は国家予算の2パーセントを費やすとしたが実際は10年で倍に膨れ上がった。批判もあったが無人に近い原野の北海道は1世紀強でフィンランド以上の人口、オーストリア並みの所得水準になった。この開拓の資料は北海道にあるので十分参考にできるだろう。
 以上のような大胆な政策は数十兆円を超える財源を必要とするといわれるが資産約7千9百兆円、正味財産約2千7百兆円、対外純資産約2.7百兆円の日本の経済力からすればとてつもなく大きい負担とは思えない。少なくとも関東大震災の時のように資産の約3割を失うという事態とは比較にならぬ程小さい。要は傷が拡大しないようにしなければなない。この財源は復興債つまり国債で賄うべきである。勿論償還財源は必要だから40年程度の長期債とし、財源は当然中長期的に税で賄う。また現状の危機的財政事情や経済状態からすれば復興債を現時点で日銀引き受けはやむをえない。このあたりの財源探しに頭初から税負担ありきの議論をするのは頷けない。
 紙数の関係で急ぐがもう1点重要な政策課題はエネルギー問題であり、いうまでもなく原発事故に起因している。率直に言って日本で新たに原発を立地させるのは不可能であると考える。従って原子力以外の非在来型化石燃料である天然ガスや風力、波力、太陽光等の再生可能エネルギーを活用しなければならない。これらをミックスしたコンパクトで合理的なエネルギーシステム、特に電力会社などから一方向にエネルギーを受け取るだけという現在の在り方から家計も又エネルギーの創出者となり且つ自己管理可能な双方向エネルギー受給システムを原発で苦しむ福島で実験モデル施設をいくつか創り新しい日本全体のエネルギー政策に反映していくことを提案する。

人工地盤の活用と共同住宅化を柱とした復興モデルの作成・提示を!

  奈良県立大学 村田 武一郎

 被災された方々へお見舞いを申し上げるとともに、被災地が将来にわたって持続可能な復興を遂げることを祈るものです。
 被災地の市街地復興にあたっては、地震と津波に強い安全なまちづくり、人々がこれまでに営んできた良好なコミュニティを維持・更新できるまちづくりを目指す必要がある。
 この時、性急に既存地盤の上に建築物の再建を行うのではなく、人工地盤の活用と共同住宅化を柱とした復興を行う必要があると考えられる。なお、高台への市街地移転も一策だが、高台における大規模開発は、自然環境ならびに海域環境への影響が大きいこと、住民と海域との関係が断ち切られることが問題である。例えば右図のような市街地復興概念図を、早く被災地に提示し、被災地の人々の議論と将来展望に資することが肝要であると思われる。
 海域と市街地の間は、100年単位の災害への対応、1000年単位の災害への対応という2段階で防御するスーパー堤防を設置し、緩衝帯とすることが望まれる。この緩衝帯で瓦礫を処分することも必要である。海域との接点には、港湾・漁港や同関連施設も設置されることになる。既存地盤は、農用地、公園、物流関連施設、太陽光発電所等再生可能エネルギー施設、共用住宅のトランクルーム等に使うことが望まれる。
 一方、リダンダンシーの確保の観点からは、緩衝帯上部への道路、後背の高台への鉄道・道路の整備が必要である。なお、臨海部・内陸部を含めた範囲で、ラダー構造の交通ネットワークが機能不全に陥らないようにする必要もある。

※復興市街地の形成にあたっては、自然エネルギーの利用を徹底的に追及する必要がある。各種施設・共同住宅の壁面には太陽光パネルを貼り、共同住宅化により余剰となる土地には、太陽光発電所を設置する。海岸沿いや後背の山林には、中規模風力発電機を設置する。各種施設・共同住宅から出る有機廃棄物は、バイオマスエネルギーとして活用する。さらに、瓦礫処分場から発生するガスもエネルギー源として活用する。以上により、系統電力を補助電源と位置づけられるような「エネルギー自律市街地」の形成を目指す。仮に大規模災害が起きた時でも、平常時に使用しているエネルギーの1/3を自給できる状況を創っておくことが望ましい。

※産業の復興と雇用の確保も極めて重要である。港湾・漁港は早期の復興を行い地場産業の基盤を提供することが必要である。また、復興市街地の形成にあたって、地域の人々を雇用する産業に十分なインセンティブを与えていく必要がある。さらに、自然エネルギー施設の運用段階での地域の人々の雇用も必要な要件である。

※阪神・淡路大震災からの復興にあたっては、建築基準法の接道基準を満足できない宅地が多くあり、個人が単独で再建できない状況が多く生じた。行政はどうすることもできず、都市計画・建築の専門家が支援に入り、隣接敷地との一体化による共同再建により、その地で住み続けることが可能となった。多くの港町は、通常、細街路が入り組んだ状況であり、東北沿岸部の港町においても、接道基準を満足できない宅地が相当数でてくることが予想される。また、高齢者世帯等にあっては、資金的問題から再建が不可能なケースも多いと考えられる。こうしたことからも、共同住宅の提供が必須である。なお、高齢者が多い地域では、将来の人口減少を見越し、住宅2戸を1戸に再整備できるような、フレキシビリティを確保した共同住宅の提供が必要である。

地方圏自立のビジョンの必要性

  阿部名保子((財)練馬区都市整備公社)

 今回の東日本大震災は、多くの人々に、首都圏の電力が遠く離れた地方圏にある原子力発電(以下「原発」という)によって賄われていたことと、想定外の自然災害の起こりうる可能性があることを気付かせた。国民がこれらを認知してこなかったのは、行政によるコントロールされた情報提供と国民の社会への無関心さに起因しているのではないだろうか。
 前者のコントロールされた情報提供、つまり原発について正確な判断ができるだけの情報を開示していなかったことにより、原発の安全性を国民が正確に認識していなかったことにあるだろう。地震発生当初、政府は「想定外の規模の地震による被災」と述べていたが、この想定は果たして正しかったのだろうか。例えば、一般の建築物は建築基準法で震度6 ~ 7 の地震に耐えうる構造を規定しているが、原発は他の施設と異なり、人体に有害な物質(放射線)を出し続けるため、どのような災害がきても安全な状態を想定しなければならなかったと思われる。もし、このような前提条件のもとで費用対効果を考えれば、原発は他の発電エネルギーよりも効率的であるとはいえず、現在の電力行政の方向性は変わっていたかもしれない。
 また、原子力発電所が産業の乏しい地方圏に多く立地し、都市圏の電力需要を満たしていることを多くが知らなかったことは、国民が自分のまわりのことに無関心であったことに一因があるだろう。高度経済成長期以降の日本は自動車と家電の製造業を中心とする産業政策がとられてきた。この産業転換とこれによる生活スタイルの変化が、国内農業の衰退を招き、若年人口を都市部に流入させ、地方圏の経済基盤を脆弱にした。そして、人口が減少し財政が悪化した地方の自治体は、原発等の忌避施設を誘致することの見返りに交付金等を得て財源を確保しようとした。
 そこで、復興に向けて、忌避施設の立地による財源確保をやめ、地方圏の経済基盤のあり方を問い直す必要があるだろう。例えば、国の政策として食生活を見直し日本の農業を守っていくのか、首都圏の機能を分散させ人口の均衡を図っていくのかなど、地方圏自立のビジョンを作る必要があることを提言したい。

市場を大切にし、分権的な発想で復旧復興を

  大島肇(株式会社アール・ピー・アイ)

○市場を大切に
 今回の様な大規模な災害に対し、国への期待が膨らむのは当然ですが、私は、敢えて、市場を重視するコンセプトを大切にして復旧復興スキームを考えていかなければいけないと感じています。地域や産業を復旧復興させるための知恵は多くの住民、企業の中にあります。政府が予め、個々の事業の良否や成長可能性のある分野を見定めること等不可能なのです。現在進められている諸政策が集権的でオーバープランニングとならないことを望みます。

○豊かな私達の社会
 私達は現在、成熟した資本主義の中で働き、生活しています。終戦直後の様に、貧しく、外国からの支援を必須とし、僅かな資本を政府が指定した分野へ配分しなくてはならない社会ではありません。資本、技術、労働力を十分に有し、家計部門には貯蓄があるのです。復旧復興に当たっては、既にいくつかのファンド、オーナー制等の活用が進んでいる様に、国の補助だけに頼るのではなく、個々の企業等で再建の事業計画を示し、社債や株式を募ったり、投資ファンドを組成したり、様々なやり方で家計から必要な資金を募集することがもっと志向されても良いと思います。広く行き渡る義援金だけではなく、行き先が明確になる形で、被災地の復旧復興に自分の資金を投じたい方は多く、十分可能性があると思います。こうしたプロセスを通じて、被災地の企業等の経営力が向上するメリットもあるでしょう。さらに、公共施設の復旧復興においても、施設の建設から維持管理まで民間による資金導入と運営を担う形が模索されても良いのではないでしょうか?

○行政の役割
 しかし、市場を重視するとはいえ、とりわけ地方行政では、様々な利害関係者の間を調整し、復旧復興の方向性をまとめあげていく、コーディネートや総合プロデュースの力が必要となります。民間の資金を活用しながら、地域全体の方向性は行政がまとめ上げていくイメージです。難しいかもしれませんが、今回、各地の行政担当者のご努力を見ますと、新たな役割も十分に担いうると感じています。
 国民の周知を集め、地に足のついた確実な復旧復興が進み、安心で安全な暮らしが実現しますよう祈念します。

ロジスティクス・チェーンの見える化

  根本 敏則(一橋大学大学院商学研究科)

 大震災後、乗用車が通行できる道路がわかる「通行実績情報マップ」が活躍した。ITS(高度道路交通システム)ジャパンが、互換性のない複数自動車メーカーの走行履歴データをひとつの地図に統合し、インターネットで配信した。自動車メーカー各社はGPS車載器からのリアルタイム走行情報を収集・加工し、より有用な情報(混雑予測など)をドライバーに提供することで差別化を図ろうとしているが、各社が協調し一部の情報を共有し提供することが社会的意義を持つことが確認された。なお、これらのシステムの運用にあってはドライバーのプライバシーの保護は前提条件となる。
 残念ながら、トラックが通行できる道路に関し統合マップは作成されなかった。しかし、一部トラックメーカーが提供した車種別通行実績情報マップはきめは荒かったが、避難所などへの救援物資の輸送を計画する際に役立った。荷主はかねてより自社の貨物を積載したトラックの追跡には関心が高い。特に、時間指定が厳しい配送、高価な貨物の配送などでは、トラック事業者にGPS車載器による運行管理を要望するようになっている。なお、すでに普及しているETC車載器で補足できるインターチェンジ通過情報なども運行管理に利活用できるが、トラック事業者・荷主への提供は実現していない。
 さらに、複数の交通手段を使って輸送され、物流拠点に在庫されるコンテナ単位・パレット単位・段ボール箱単位の貨物に関しても、ICタグなどで管理できる環境が整いつつある。ここでも荷主のプライバシー(取引相手別貨物など)を保護しつつ、貨物位置情報を収集・加工し社会的に意味ある情報を作りだせないか、知恵が求められている。例えば、今回も東北で燃料が不足し救援物資の輸送などにも支障をきたしたが、その原因の一つとして、他地域の多くのドライバーが燃料供給に不安を覚え、自分の車を満タンにすべく買い急いだことがある。仮に、ITSジャパンのような第三者機関が在庫されている燃料、トラック・鉄道・内航船で輸送されている燃料を追跡し、地域別の需給調整の見通しを発表できれば、ドライバーももっと落ち着いた行動を取れたはずである。

制度改革課題と両立する復興政策を実施せよ

  川野辺裕幸(東海大学)

1. 復興国債の発行と消費税の時限的税率引き上げを軸とした増税スケジュールの明示
 いち早く用意する必要のある復興事業の財源は、大量の国債発行によらざるを得ないが、日本財政の持続可能性に国際的な疑義を生じさせないよう、時限的増税スケジュールの明示が必要である。15兆円程度の復興国債発行枠の決定と同時に、消費税の2012年度から5カ年間に亘る税率1%引き上げを軸とした税制改正と歳出削減のスケジュールを示すべきだ。

2. 社会保障改革・財政再建と両立する復興財源の調達
 2011年度第一次補正予算では、すでに年金の国庫負担財源手当を先送りし、年金積立金の取り崩しを行っている。持続可能な社会保障制度への改革と財源調達の目途も示さなければならない。
 「社会保障と税の一体改革」の課題は、消費税の増税、所得税の累進制確保、課税最低限の引き下げ、法人税の実効税率の引き下げであった。これに逆行する一時的財源調達は税制によるゆがみを放置する。所得税の課税最低限の引き下げ、各種控除の廃止、法人税の租税特別措置の廃止等の改革課題に沿う方向で細かい増収策をとり、社会保障財源としての消費税増税に備えるべきだ。

3. 地方分権による復興を道州制につなげよ
 東日本のインフラ復興には巨額の資金と強力な権限が必要である。資金の多くは国に頼るべきだが、復興を主導するのは県及び市町村である。国の関与は復興構想のマスタープランの作成と、地域共同のまちづくりを支援する土地等の権利関係の整理や復興特区の設定など規制緩和と税制の優遇を内容とする法令による支援に止まるべきである。
 復興院を創設して強力な権限と財源を付与すべきだが、運営は地方主導で、現場主導で行われるべきである。復興院は現地に置かれ、地域に復興のノウハウと資金を提供し、地域ごとの復興の進み具合を調整し、広域連携を推進する組織となるべきだ。大震災からの復興で問われているのは、地域の、地方分権の力量に他ならない。そして、国の権限の復興組織への大胆な移譲が東日本に行政の核を作り、道州制に向けて日本の統治組織を鍛えていく第一歩となる。

動く商店街「モービルタウン」による都市機能提供

  樋野公宏(建築研究所)、渡和由(筑波大学)、鈴木亮平(東京大学)

 動く商店街「モービルタウン」は、生活サービス機能、交流機能など従来の商店街が持つ都市機能をユニット化し、必要な時、必要な場所(徒歩圏)に自動車で運び設営される。旧来の商店街と同様に、物販だけでなく、医療、福祉、文化など様々な機能が、様々な組み合わせで集合する空間を創出するものである。
 これは、短期的には仮設住宅地への都市機能提供、地域商業再建や雇用創出で被災者を支える。頻度や時間、運ぶ機能を柔軟に変えながら被災者のニーズに応えることができ、土地利用上の制約や財源の関係で都市機能を常設できない地域でも運用可能である。また、モービルタウンは人々が集まる空間を創出するため、地域住民が自然に顔を会わせる機会を生み、被災者の孤立を防ぐ役割も果たす。
 長期的には散在する集落の買物弱者や交通弱者を支える。被災により高齢・過疎化、地域商業の衰退に拍車がかかることが予想されるが、徒歩圏の利用を前提とするモービルタウンは高齢者でも歩いて利用できる。なお、副次的効果として、歩行による利用者の健康増進、環境負荷低減が期待される。
 被災地において、農漁業関連施設は行政が介入して集約化が検討されているが、商業施設は市場に任せられ、結果として身近な小規模店が淘汰され少数の大規模店が残るという、望ましくない形の集約化が懸念される。モービルタウンは利用者が出資、経営参画し、利益を還元するコミュニティビジネスとして運営され、こうした市場の失敗を
補完する。

 本提案は都市計画分野で喧伝される「コンパクト・シティ」の逆の発想である。すなわち、機能を固定せず動かすことで、現状の地域の良さ、豊かさを保持しながら、都市機能を享受できる。このように、モービルタウンは被災地の復旧・復興を契機に、わが国のこれからの都市デザイン、都市形態のあり方、新たなライフスタイルを提示するものである。

■動く商店街のユニットイメージ:トラックの荷台を改造した多様な用途と機能

■動く商店街の設営イメージ:街路・広場空間を創出し人々の交流を生む

■動く商店街の圏域と移動イメージ

復旧・復興にはスピードが大切、そして復興財源を確保せよ

  香川敏幸(慶應義塾大学)

 東日本大震災は、この地域を襲った大地震・大津波の甚大さから、日本史上貞観年間869年以来とされる。東京電力福島第1原子力発電所事故は、日本のみならず原発を開発または立地する海外諸国においても、その速やかな収束について最大限の関心を払って見ている。各国とも原子力政策の堅持あるいは見直し、そして廃止まで、それぞれの国のおかれた状況により、対応は様々である。
 原発事故への対応を含め、大震災復旧・復興にはスピード感をもってことを進めなければならない。
 そのためには、被災地における復旧の障害となっている瓦礫の撤去、集積、処分に係る作業の人員(全国の災害ボランティアの受け入れ)、処分場の確保を、地元自治体は業者委託を含めて、迅速に処理する工程を進めることである。
 避難所生活を余儀なくされている被災者の一刻も早い帰宅、仮設住宅への仮入居、その他市町村単位での他地域への移転等、可能な限りそれぞれの地域の地縁・血縁による堅固な共同体を維持できるよう最大限の努力を傾けるべきであろう。
 被災地における社会インフラ、民間企業設備、一般住宅等、国富(ストック)の毀損額は16兆円ないし最大で25兆円と推計されている。(内閣府、3月23日発表資料)。これに相当する再建・復興には、阪神・淡路大震災の事例が参照されるが、この場合主に兵庫県1県で震災後3年間に集中的に復興投資が行われており、2年目にはほぼ再建可能な投資額の投下がなされた実績がある。
 大津波の被害が甚大である太平洋沿岸東北4県および北海道、茨城県、千葉県を含む国土の6分の1以上における国富への直接的被害の再建に、「復興公債」発行を視野に海外からの資金流入を図って、できるだけ短期集中的に財源を確保する必要がある。財源を税にのみ頼ることなく、今こそ公債管理政策を見直すべきであろう。
 貞観大地震にはなかった原発事故というある意味では「人災」への事後対応こそ一刻の猶予も許されない。事故収束の作業工程を国際社会の支援も積極的に受け入れる「受援能力」を高める機会でもある。

地域主体の復興支援の枠組みを早急に構築すべき

  城所哲夫(東京大学)

 今回の地震・津波、原発災害は県境を大きく超えた広域的災害であり、その復興再生にあたっては広域的なビジョンが必要である。一方で、地域主体の復興・再生を貫くことが復興再生の鍵であり、両者を包含し、地域主体の持続的な復興再生を進めていくための枠組みを早急に構築する必要がある(図)。具体的には、県境にとらわれない広域的な復興協議会のもとで、自然再生、地域経済再生、市民主体のまちづくり、自然再生エネルギー等、自立的地域圏の形成を目的とする復興5カ年計画を策定する。一方、自治体、まちづくり会社、民間、市民団体等が、その広域的ビジョンを共有しつつ、地域再生事業を自立的に展開していく姿が望ましいのではないか。
 炭坑・鉄鋼業の閉鎖により衰退した地域の再生を果たしたドイツ・ルール地域のIBAエムシャーパーク公社の成功事例をモデルとすると、広域的なビジョンの策定とボトムアップの地域再生事業をつなぐ中間支援組織として、東北被災地域復興再生公社(3県・仙台市および国が設立。スタッフは東北地方関係者を中心に、独立性を保つために、出向ではなく、行政、民間、大学等から、すべてプロパーのスタッフとして公募すべき)を設立し、多岐、広域にわたる復興関連組織間の情報共有・連絡調整、地域主体の集落計画の策定と実施のために千人規模で必要となる専門家派遣のコーディネート、復興再生基金利用申請の審査等、関連団体・組織が恊働していくためのプラットフォームの形成を図ることが望まれる。

時を繋ぐ震災復興 ~環境リスクと共生していくために~

  木谷 忍(東北大学大学院農学研究科)

 破壊された瓦礫の町で海に向かって深々と頭を下げる姿,原発事故で政府・東電に怒りをぶちまける姿,この被災民の際立つ態度の違いは,単に天災・人災という災害の“質”によるものだろうか.熊田(2005)は,市民がリスクの認識,評価,そしてリスクへの対応行動について納得できる自己決定の場から遠ざけられ,結果に対する自己責任領域の拡大を指摘する.池田(2004)は,不確実性の程度(生起確率の高低ではない)と望ましくない結果の市民間での一致性からリスクの対応戦略を捉えるが,原発のような自然リスクを増幅しかねない人工リスク(科学技術)に囲まれ,リスクの影響が変動拡大(市民の結果受容の不一致の拡大)する現在,最も必要とされる社会装置は,リスクコミュニケーションである.
 このコミュニケーションの装置は,現世代の人達だけに与えられた特権ではない.サイレントマジョリティ(将来世代の人々)の声をいかに取り込むかという私たち現世代の想像力が問われる.現世代の一部エリートたちが,未来世代を含む圧倒的な数の人々の選択(自己決定)に関わる自己責任領域を奪い去り,人間思考に都合の良い形式モデルによる確率計算から安全基準を想定し,そしてこれほどの大震災は予想できなかったと詫びる.形式思考によって蓄えられてきた知識とそれに裏づけられた科学技術の脆弱さは,現世代(ラウドマイノリティ)が近視眼的に経済的豊かさを希求するが故に,平常時には顧みられることはない.海に向かって頭を下げる被災者の心情は,歴史の教えに従わずに大堤防に安住してしまった自責の念なのかもしれない.純粋な自然災害は,人間の心の中にあるのであって,私たちの精神の外にその根拠を求めることはできず,すべての苦しみは私たち自身の責任である.
 ある知識は勇気を持って忘れ去る(unlearn),ある構造物をあえて壊してしまう(unbuild),時を繋いでいく地域社会(サイレントマジョリティとともに生きる社会)にとっては,今まさにこういった勇気が問われているのではないか.

熊田禎宣(2005)「植福の科学づくりに貢献する計画行政学」,計画行政28巻3号,16-26.
池田三郎(2004)「リスク分析事始」,『リスク、環境および経済』,33-45.

津波の被害地域においてデマンド型交通指向の復興

  茂呂浩平(日本ラッド株式会社/放送大学大学院生)

 昨今の都市開発では、公共交通網の整備を前提に、公共交通網の乗降所に隣接して商業施設や公共施設、住宅地を配置するまちづくりを行う計画、つまり自家用車利用の抑制を狙った「公共交通指向の都市計画」を行うことが散見されます。
 しかし、今回の甚大な津波の被害を受けた地域では、日本で一般的な独立採算の経営を前提とした公共交通が成立する規模の都市が殆ど存在しないことは明らかです。
 また、公共交通の利用が困難なため、個人の移動手段として自家用車を利用することが常識となっています。
 だが、今回の大津波により、普段利用している自家用車の多くが流出等で利用できなくなりました。
 そこで、被災前と同様に自家用車に依存した移動の形態に戻る前に、デマンド型の小規模な公共交通を整備し、整備した公共交通指向の地域復興計画を行うことを提言します。
 小規模であれば、過疎地においても経営が成立する、または補助金が少額で済みます。
 これから、商業地域および、漁業関連の施設は被災前と同様な地域に「まちの中心地」として再興されることが想定されます。
 住宅は、現時点、また当分の間は、避難施設や仮設住宅にある程度まとまったコミュニティーを形成して生活していると見受けられます。
 そこで、まず、現在の住宅地と商業地域の間の移動の手段として、タクシーや小型のバス等を借り上げた、デマンド型の交通サービスを提供します。
 次に、今後、住宅地を高台に再興することが提案されていることを前提に考えます。
 しかし、高台の住宅地は、低地の「まちの中心地」とは距離が離れることが想定され、自動車以外での移動が困難になると考えられます。
 そこで、高台に住宅地を再興するにあたり、「まちの中心地」との間の移動手段として、デマンド型交通が提供されることを保証します。
 仮設住宅等に居住している間にデマンド交通の利用になれていれば、住宅地の再興後も抵抗なく継続してデマンド交通を利用することも考えられます。
 さらに、高齢者の多い地域にあって、交通弱者の救済にもなると考えています。

脱原発へ英知の結集を

  工藤 啓(東北福祉大学)

 東日本大震災に関して多様な提言がよせられているが、フクシマへの対応は全く別次元の問題であろう。1972年に出版された『成長の限界』に衝撃をうけた私は、経済学の立場から物質代謝、エネルギー収支、エントロピー理論などを学んだが、核エネルギーの技術体系は完成されざる危険なものであるとの結論を得た。原子力発電などの巨大技術を背景に、高密度社会の日本列島に大量生産→大量消費→大量廃棄といった経済循環を構築したことは、日本人に分不相応ともいえる物質的繁栄をもたらした。しかしながらその代償として、「想定外」の天災や人災がもたらす苛酷な状況に日本社会が耐える覚悟も必要となった。
 東日本大震災は私の長年の懸念が的中したことになるが、地震→津波→原発事故という最悪の災害連鎖は、「原子力村」が作り上げてきた安全神話を崩壊させた。原子力発電は全く未完の技術体系であるため、フクシマの事故対応のシナリオは暗中模索の段階にあり、その解決には100年単位の時間と天文学的な費用を必要とするであろう。私は30年以上前に女川原発の建設に反対を表明したが、宮城以北の豊かな自然を残すことで、食と農・水の健全な関係を維持するべきであると考えていた。
 東日本大震災を厳しい反省材料として、エネルギー体系をハード・パスからソフト・パスに転換させる絶好の機会である。大規模集中型から小規模分散型へエネルギー体系を転換させることであり、当然のことながら、中央集権的な政治システムや大量消費という経済システムのパラダイム・シフトも必要となる。原子力に代替するエネルギーとエネルギー節約に関する技術革新に必死に取り組むべきである。
 政府は財政収支に配慮を加え、ハード・パスからソフト・パスへの移行を全面的に支援する必要がある。ドイツが脱原発に踏み切ったように、日本の産・官・学が英知を集結してエネルギー面でのパラダイム・シフトに取り組めば、東日本大震災の禍を福と転じることもできよう。地震列島に54基の原発が存在すること自体が許されざることなのであり、悪夢の再来は何としても防がなければならないのである。

情報インフラとしての地域情報データベースの構築

  山本佳世子(電気通信大学)

 東日本大震災は阪神・淡路大震災(1995年)とよく比較されるが、阪神・淡路大震災は狭域における都市計画を中心とした「まちづくり復興」が中心であったのに対し、東日本大震災では大津波等の影響により被災地が広域に及び、地域の経済・社会など様々な分野を対象とした「地域再生計画にもとづく復興」が必要であるといえる。また被災地には人口減少・高齢化が全国平均よりも急速に進行している地域、大震災以降に人口流出が著しい地域もあるため、復興構想においては人口構造や人口分布についても考慮する必要がある。一方、被災地にはこれまでに何度も津波被害を受けてきた歴史があり、過去の記録、言い伝えや伝承、石碑という形態での「形式知」として、自然災害の「地域知」が現在まで伝えられてきた。加えて東北地方以外の地域でもハザードマップを再確認することなどが行われ、とくに液状化現象が発生した地域では古地図等を参照して以前の土地利用を把握することも行われるようになった。
 これらのことを考慮して、被害状況や地域危険度、地形等の自然条件、産業や人口などの経済・社会に関するデータに加え、多様な分野の専門家、行政、一般の人々が持つ「専門知」「経験知」「地域知」を「暗黙知」ではなく「形式知」として共有することを目的としたGIS(地理情報システム)による地域情報データベースを情報インフラとして構築し、東日本大震災の被災地の復旧・復興、今後の発生が予想される震災での被害軽減を図ることが必要ではないだろうか。東日本大震災の被災地は広域であるうえに被害状況の地域格差が大きいことから、詳細な地域情報データベースを基盤として地域再生計画を策定し、地域に関わる多様な主体の参加により計画を実施していくことが重要である。阪神・淡路大震災の復旧・復興時で被災状況のデータベース化はすでに実現され、多面的に活用されていた。また被災地だけではなく、全国各地での地域情報データベースの構築を提案したい。このようなデータベースは災害時には情報基盤となるが、平常時にも多様な目的での利用が期待できる。

地域循環のシステム構築を

  西浦定継(明星大学理工学部)

 今回の大震災が起こる前、リーマンショック以降、世界経済は既に環境対策による経済のテコ入れに大きく舵を切ってきている。米国のグリーンニューディールに代表されるように、環境対策と雇用創出を一体として考え、サスティナブルな社会システムを構築しようとする考えである。そこで、改めて、今回の大震災を受け復興プロセスにおいて考えるポイントを以下にまとめる
?@ローカリゼーション戦略の視点として、地域の自然環境、社会環境など地域固有の価値を保全、育成し、その総合的価値を高めることが魅力ある地域、持続可能な地域経済システムにつながる。その一つの切り口が、自然エネルギーの活用を核とした地域戦略であり、地域で一貫して完結するような循環型システムを導入するべきである。また、雇用や食糧自給についても、震災地域で循環するような自立したシステムを構築するべきである。
?A復興に際しては、突き詰めて判断するべき課題に直面する。例えば、高台を居住地にする、景勝地を開発するなどに際しては、自然環境の保全か人間の生存かということが問われるであろう。また、津波により破壊された地区に開発規制をかける場合は、個人の権利か公共の利益かが問われる。エネルギー問題に関しては、豊かさとは何かという言うことが改めて問われるであろう。そのような究極の選択問題を、この復興プロセスを通じて国民的議論にまで持ち上げ、日本人一人ひとりが考える機会とすべきである。
?B都市計画に絞って考えると、広域土地利用計画が必要であろう。コンパクトシティ、スマートシティなどを実際に実現するには、面的な次元に落としこむことが必要であり、農地・森林管理も含めて具体的な土地利用計画がまずは必要である。その中で、自然エネルギー発電施設の立地や、地域循環型システムの構築も具体化していくことである。

 以上の3つのポイントを総合すると、要は地域の将来をエネルギー需給という観点から捉え、どのような地域を作るか、地域で守るべき価値は何かという問題に答える必要が出る。そこには、住民参加や新たな公という概念のもとで、住民自らが考え、選択し、行動・実践することが求められる。

スピンオフ技術を用いたジオフロント型避難都市

  鈴木羽留香(千葉商科大学 客員研究員)

 災害発生時の緊急避難先としての地下都市を建設し、遠い未来まで残るふるさとをつくることで、被災者に継続的な安心を提供する。
 課題は、確実な技術的「安全」の確保と、多セクター間での信頼構築による被災者の「安心」を如何にして維持するかである。両立し得る具体的な方法は以下の通りである。
 「安全」面については、宇宙空間上での閉鎖的環境の技術を応用し、地中での多様な問題点を解決する。類似の環境下で既に実証済みの材料のみを用い、安全性を高めることが最優先である。遮蔽剤や、圧力分散の方法等、宇宙空間で蓄積された技術に加え、閉鎖型の生活スタイルにおける物質循環や、人工環境下における心理面を含む健康状態の把握等、参考となる点は多い。今回の震災でも既に、各種断熱・遮蔽剤、逆浸透等のスピンオフ技術が多く用いられているという実績が、宇宙開発分野の技術には多数ある。
 「安心」面では、計画-設計-建設の一連のプロセスでの非専門家と専門家の相互的リテラシー向上を義務付け、全員でつくりあげる。希望があれば最優先し、被災者の望むような雇用拡大にもつなげる。自分達が手がけ、完璧に理解し、把握している防災施設が身近にあるという安心感が、被災者の心のケアの一助となればと考える。
 津波等の心配事のない安住の地を求める、不安を抱えた避難者が増加する中、ガレキ問題の残る地上での仮設住宅の建設が追いつかない現状を踏まえると、地下の広大な敷地を用いることは、不安解消のニーズへの対応迅速化にもつながる。PTSD等で地上での生活に不安の残る被災者が、地下避難都市で生活することが、果たして安心感や健康を得ることにつながるのか否かも、ヒアリング等を通じて、慎重に見極めなければならない。
 初期段階では、緊急避難用として数ヶ月居住可能な設計とし、短期完成を目指す。その後、宇宙開発技術の発展に伴い、技術的連動をはかりつつ、徐々に植林や自給自足の農地、動植物等の自然生態系を取り入れ、最終的にはスペースコロニーのように、閉鎖系環境で健康を保ちつつ長期的に避難する、世界初の防災システムを完成させ、様々な外的要因に対応出来る持続可能な安心を目指す。

[参考文献]
大塚本夫「ジオフロント・期待と課題」『土と基礎 』37(2), 1989, pp.1-5
神野秀基, 高部哲男「都市型洪水に対する安全対策 : 大深度地下放水路排水システム(<メカライフ特集>安全・安心)」『日本機械学會誌』109(1048),2006,pp.170-171
戸田 正治「安全・安心な地下街?八重洲地下街の防災対策?」『電気学会誌』Vol. 129, No. 4, 2009,pp.216-219
三輪田真「産学官連携による宇宙開発利用の裾野拡大 (特集 産学官の連携による協力・スピンオフ技術)」日本マイクログラビティ応用学会, 27(2), 2010,pp.86-90
吉川肇子,白戸智,藤井聡「技術的安全と社会的安心」『社会技術研究論文集』2003, pp.1-8
Anilir Serkan, 畑中 菜穂子 [訳]「技術転用・スピンオフ インフラ・フリー・システム–持続可能な都市形成を促すための東京大学の役割 (宇宙建築、あるいはArchitectural Limits–極地建築を考える) 」『Ten plus one』(46), 2007,pp.117-119
Gerard K. O’Neill.The colonization of space Physics Today, 27(9),1974, pp.32-40
Vogler Andreas,Vittori Arturo,畑中 菜穂子 [訳]「技術転用・スピンオフ 宇宙居住のスピンオフ–Architecture+Visionの試み (宇宙建築、あるいはArchitectural Limits–極地建築を考える) 」『Ten plus one』(46), 2007,pp.120-123

電力不足への対応として電力料金の引き上げを通じて節電促進を

  川崎一泰(東海大学政治経済学部)

 2011年3月11日の東日本大震災では、被災地域に立地する発電施設も大きな被害を受け、電力の供給能力が著しく低下した。夏の電力需要のピークに向けて、供給力を一定程度回復させることができる見込みとなったが、昨年度の供給力と比べると、東京電力管内で15.4%、東北電力管内で22.4%程度ダウンしており、電力の安定供給は綱渡りの状態である。電力の安定供給のためには新たな発電施設の新設などの措置が必要と考えるが、数年で新設することは困難なため、当面は電力不足の状態が続くと考えなければならない。
 電力の安定供給は、経済にとっては生産性に大きな影響を与え、半導体産業などは電力の安定供給が生産性に大きな影響を与え、どんなに人件費が安くても電力が安定した国でしか生産をしない。また、3月の計画停電の際に明らかになったように、食品産業も衛生管理の観点から洗浄等により、生産量が大幅に減少するなど、生産活動には大きな影響を与えた。こうした状態が続くと、こうした産業が海外に流出し、雇用が減少することが懸念される。こうした事態を防ぐため、大口事業者に対しては、電気事業法に基づく使用制限を発動させることができるが、家計と小口事業者に対しては、節電の呼びかけにとどまっている。
 計画停電による経済的ロスは相当大きく、電力の安定供給が阻害されることは震災による直接被害に加えて、間接的な被害をもたらす恐れが大きい。これに対して、自動販売機等の特定事業に対して、節電を強制させようとする動きがある一方、病院や交通機関、被災地に対しては計画停電免除の要望があげられている。このような電力の割り当ては公平性の観点から極めて不合理で、電力料金の引き上げの方が合理的かつ公平な配分が可能だと考える。ただし、一律に電気料金を引き上げる必要はない。理想的には電力需要のピーク時の料金を上げることが望ましいが、技術的に困難なため、現実的な対応として、筆者は第三段階料金部分の引き上げを提案する。
 現在、小口契約で一般的な電気料金はブロック逓増型料金制をとっている。これは、月間の使用量に応じて、電気の単価が上昇する仕組みである。2011年6月時点では、基本料金に加え、120kwhまでを生活必需的な需要として安価(17.87円)、 300kwhまでを標準的な家庭の1カ月の使用を想定した料金22.86円、300kwhを越える部分については、エアコンなど電力負荷の高いものの利用を想定した料金(24.13円)が設定されている。この300kwhを越える第三段階料金を引き上げることで、節電を促進しようとする考え方である。どこで節電をするかは個人や事業者の自由とし、公平に節電を促すことができるものと考えられる。

行政のBCP

  和泉 潤(名古屋産業大学)

 災害による直接被害以外に、復旧が遅れることにより増大していく間接的被害が、さらに復旧・復興を遅らせてきたことは、阪神淡路大震災以降の災害で見られており、多くの企業では、それに対応するためBCPを通常の業務に組み入れてきた。今回の大震災でも、BCPを行っている企業では復旧が速やかに進められている。ところが、大きな被災を受けた市町村においては、物理的に役場がなくなる、職員が死亡・行方不明になるなど、日本全国の市町村の協力を得て、限られた人数で復旧の努力が行われているが、遅々として進まない市町村は未だに多い。
 市町村の業務は民間企業と同列に論ずることはできないが、BCPを行うことで、被災後の日常・非日常の行政サービスを適切に提供できる体制を取ることが重要である。すなわち、災害後は緊急時対応、応急復旧、復旧、復興と行政が行うべき行政サービスは変化してきており、それに適切に対処するために、ハードな対応、ソフトな対応をBCPとしてどう考えるべきかが課題である。
 例えば、ハードな対応は、庁舎の耐災化はもちろんのこと、行政の基本である住民情報のリダンダンシーをBCPとして図るべきである。一方、ソフトの対応としては、「国際防災の十年」のレポート「都市を安全にするガイドライン」にもあるように、災害後の一連の流れに対応できる組織の強化(専門家の訓練・災害後の役割とその遂行能力の強化など)とそのための国・県の持つ責任と財源の市町村への委譲によりBCPを行うべきである。このBCPは日常の業務に活用してこそはじめて災害時に円滑に移行できる。
 今後の市町村で進められる復興計画では、まちづくりや行政サービスばかりでなく、行政の業務遂行におけるBCPも含めて行くことが重要である。それとともに被災を受けなかった市町村においても今回の教訓からBCPを組み込む努力が必要となる。

被災した中心市街地の復興に関する提案

  岩本 直(独立行政法人中小企業基盤整備機構産業用地部)

 東日本大震災では沿岸部の多くの自治体が津波の被害に遭遇した。今後の復興への足どりをより確実にするためには、各自治体の中心市街地の復興を優先して行なうことが重要である。その理由は中心市街地の早期の復興は震災前の経済活動を被災地域に取り戻す大きな起爆剤となり、さらに被災地域全体の復興促進にも様々な効果が期待できると思われるからである。
 住宅地の場合は津波の被害を受けない高台等への一律の移転も必要と思われる。しかし、中心市街地の場合は、被災した中心市街地の住民や事業者の意向、自治体や専門家の意見等を踏まえて今後の中心市街地の位置や復興手法を検討することがまず必要である。
 中心市街地の被災状況は大船渡市や気仙沼市のような一部被災型と陸前高田市や大槌町のような壊滅型の2つに分類できる。一部被災型の場合は、被災を免れた残存中心市街地の今後の位置づけを同時に検討しながら中心市街地全体の復興計画を策定することが必要である。また、壊滅型の場合は、津波が来ない高台や内陸部への思い切った中心市街地の移転もあり得ると思われる。そしていずれの自治体も行政、商業や業務、教育機能を機能的かつ効果的に配置し、災害に強い中心市街地を目指すと同時に、震災前よりも集客機能を高めた中心市街地の復興を目指すことも忘れてはならない。
 また、今回、津波に被災した多くの自治体の基幹産業は漁業、水産加工業である。被災地域は今後も津波が来襲する可能性が高いことを踏まえ、例えば、どうしても漁港の近くでなければならない機能や津波の被災を受けても復旧が簡単な機能は漁港の近くに配置し、それ以外の機能は高台等の中心市街地に配置する等、今回の震災のように基幹産業の全ての機能が一挙に壊滅することがないように中心市街地を計画することも必要である。
 今回の震災では多くの自治体の中心市街地が被害を被った。しかし、「禍転じて福となす」の精神で、従来よりもさらに災害に強くて活気にあふれた中心市街地を実現するための重要な契機にしていくことが必要である。

真に「魅力ある」観光地へ

  鎌田裕美(西武文理大学)

 観光は「平和産業」といわれる。政治や災害など情勢が安定していないと、そもそも成り立たないという意味である。このたびの震災でも、とくにアジア地域からの訪日外国人客が激減したことなど、痛感した事例は多くある。こうした状況を鑑みて、観光庁は4月12日付で都道府県知事などの関係者あてに文書を発出した。被災を免れた各地域から観光により「日本の元気」を積極的に発信していくことも、被災地への経済的かつ精神的な応援になるという考えの下、積極的な取組・発信を依頼するものである。また、観光に限定しているわけではないが、宮城県知事は4月11日の会見で「被災地が元気になるためには、日本経済全体の元気が必要」とし、「被災者の分まで経済活動やイベント開催を積極的に実施してもらいたい」とお願いしている。
 観光地にとって、観光は経済基盤である。被害を受けた観光地は復興しなければならないし、直接的な被害はなくとも風評被害があれば、それを乗り越えなければ生活はできない。また過剰な自粛は、被害を受けていない観光地にも観光客が来ないことになり、厳しい状況になる。日本国内の観光地は、今回の震災で被災した観光地から学ぶことは多くあるだろう。被災した観光地は、今後復興していく。復興過程では、全国の観光地にとっても被災した観光地とともに災害を考え、ともに「災害に強い」観光地を考える機会になるのではないだろうか。「災害に強い」観光地とは、必ずしもハード面や防災の取組だけではない。震災などの災害に見舞われたときのために復興の術を考えて、すべての観光地で共有することも「災害に強い」観光地と考える。たとえば、被害を受けた観光地に、受けていない観光地が売上の一部を寄付する仕組みである。寄付するためには観光客が来なければならない。観光することが支援につながる仕組みができれば、災害時でも観光は促進されるだろうし、結果として経済効果も生まれる。
 日本が地震国であることは、今後も変わらない。だからこそ、この所与の条件下において日本国内の観光地が「災害に強い」観光地になることは、国内外を問わず、真に「魅力ある」観光地として、強くアピールすることになると考える。

柔軟な復興まちづくりプログラムの必要性

  福島 茂(名城大学都市情報学部)

 復興まちづくりのグランドデザインは、被災住民がその地にとどまり、まちづくりに主体的に関わり、希望をもって生活再建を進められるべきものであり、安全・暮らし・産業経済の復興プログラムが検討されている(岩手県復興計画案)。しかし、現実には、各領域のプログラムを合理的に連動させることは容易でない。復興構想会議などで新制度が提案されても、政治混迷や財政制約のもとで制度化できなければ、従来法制度・事業制度で推進できる事業が縦割りで進められる。被災地の復興都市計画では区画整理事業や防災集団移転促進事業などの準備が進みつつある。多くの被災者が生活再建の十分な見通しのないままに、被災地で再建するのか、高台へ移転するのか、他地域に転居するのかなど限られた選択肢のなかで意思決定が求められる。こうした状況では、復興計画から取り残される被災者もでてきそうだ。
 復興プログラムの柔軟な立案運営が求められる。プログラムの柔軟性は、「暫定復旧と恒久的復興の区分」「段階計画」「復興速度の調整と複線的プログラム」「統合的アプローチと多様な代替案の用意」により確保される。日常生活基盤と産業基盤を暫定的にでも速やかに復旧させたのちは、国の支援体制の進捗や地域経済の復興状況を確認しつつ、恒久的な復興まちづくりにじっくりと取り組む必要がある。被災住民は、被災状況、ライフステージと世帯構造、健康・経済条件において多様である。従って、多様な生活再建支援と復興速度の調整も含めて複線的なプログラムが必要になる。被災者の属性・ニーズ(被災者カルテ)に応じて生活再建のシナリオを想定し、これを支援し、個人の生活再建をまちづくりにつなげることが復興まちづくりの基本である。今回の大災害で強まった地域住民の絆を社会的関係資本に発展させ、住民主体の持続的なまちづくりの機運と体制を育てていくこと、広大な被災地域の復興過程で生まれる知見を学びあう視点も大切である。国は包括的な一括復興交付金や被災地が要求する特区を認めて、復興過程の創意工夫を生かせるようにすること、復興過程で明らかになってくる政策課題に迅速に対応することが求められる。

東日本大震災復興に向けた都市・地域政策

  山本匡毅(一般財団法人機械振興協会)

 今回の震災は、都市直下型の阪神・淡路大震災と異なり、広域的な震災であった。そのため、被害は東北のみならず首都圏にまで及び、各地の都市・経済機能はマヒ状態となった。その結果、我が国の経済機能は停滞し、国民経済からグローバル経済へ影響を及ぼし始めている。それ故、早急な都市・経済機能の復興が求められる。その際には、震災前の都市・地域構造への復旧では不十分である。今後も南海・東南海地震や首都直下型地震が想定される中で、リスク分散型の都市・地域構造への政策的な誘導が必要である。すなわち多極分散型地域構造へ日本の国土構造を転換するということである。
 かつて首都機能移転構想は、予定地の選定まで行ったが立ち消えとなった。ところが最近のマスコミの論調は、再び首都機能移転論となっている。しかし単に首都機能(実際には官庁機能であるが)を一極集中のまま、ある地域へ移転したとしてもリスク分散にはならない。これでは東京一極集中の移転に過ぎない。地方分権社会においては、広域経済圏をガバナンスする地方都市群を核とする圏域に権限を委譲し、非常時には圏域間で相互に支援をできるような体制を構築することが求められる。とりわけ東北の復興において仙台大都市圏を中心とする圏域の果たす役割は大きいはずである。
 その意味で、今回の復興下における都市・地域政策は、道州制を見据えた大胆な地方分権を含むリスク分散型都市・地域構造の構築を目指した政策立案が速やかになされるべきであると考えられる。その際には都道府県を含む自治体は、これまでの縦割り主義を脱し、低リスクでエコロジカル、かつQOLの高い都市・地域を実現するためには、最も大事なものが従来のガバナンス構造ではないことを再認識することが求められる。その上で地域の住民自治・経済発展をソーシャルキャピタルのような共助を活かしつつ、新たな視座から大胆な規制改革を含めた都市・地域政策形成を行うことが必要である。

注:本提言は個人的見解であり、所属機関の意見ではないことを付記しておく。

復興に向けた国土・広域計画と国の役割

  片山健介(東京大学)

 東日本大震災の被害は複合的であり広域に渡る。復興に向けたグランドデザインの共有、また首都圏や西日本でも国土・広域計画のあり方が問われよう。
 震災前であるが、東北地方の長期ビジョンということでは、2009年8月に国の地方支分部局、県、政令市、市長・町村長会、経済団体が入った広域地方計画協議会により策定された国土形成計画東北圏広域地方計画がある。あらためて読み返すと、自然災害に対する脆弱性、人口減少や高齢化社会への対策、コミュニティのネットワークを基礎に多様かつ自立的な圏域を形成すること、新エネルギー開発を含む環境先進圏域の実現、集約型都市構造への転換、都市と農山漁村の連携、ものづくり産業の活性化、農地の利用集積加速など、今般の様々な提言にみられる内容が既に記述されている。津波による甚大な被害や原発の安全性など前提が崩れた部分もあるが、計画が目指す方向としては震災を経ても大きく修正することなく、むしろどう実現するか、集落や農地・漁港の再編、市街地の復旧復興と既存都市との機能連携、広域インフラ整備も含めた地域空間計画へと具体化すべきだろう。
 そのためには、実情の異なる地域の意向を踏まえつつ、県境、産学官民、業種の違い、縦割りを越えた地域主体の検討・実施体制が望ましい。ただ、震災対応で役所が多忙であり、避難も続く現状では、組織を構築し、中長期のビジョンを議論しまとめるには時間がかかりそうだ。
 混乱の続く復興の初期段階では、国が主導的な役割を果たしてもよいのではないか。例えば、広域地方計画協議会をベースに農林漁業などの関係団体も加えた体制を作り、地域の動きと連動する。地方支分部局は、霞が関の出先機関というよりは、広域行政機関としてイニシアチブをとる。本省は財源や規制の柔軟な運用でその動きを後押しする。
 将来的には道州制や広域連合のような制度も考えられよう。復興支援という面でも、関西広域連合の活動は注目に値する。今後、被災地の復興・支援の各段階における国、県、広域連携組織の役割も検証して、大地震が予測される他の広域地方における災害対応の体制構築に活かすべきと考える。

専門家のあり方

  旭 勝臣(あさひプロボノ事務所)

 私は、現在、東日本大震災の復興支援を中心として、専門家(技術士)としての知識、経験を活かしたボランティア活動(プロボノ)を行っています。その立場から、東日本大震災の復興支援を行う専門家のあり方について述べさせていただきます。
 特に、原発問題では、色々な分野の専門家が登場し、また今後も登場してくると思われますが、それを見ていると、専門家には、次にあげるような能力が要求されると考えます。
 私としては、その方向で常日頃努力していく所存です。
?@専門家として、自分の専門とする分野で造詣の深いこと。
?A専門分野以外のことを含めて、広く情報を集め、俯瞰的に物事を見て、実行できること。
?B一般市民と接触するときは、対等の立場でコミュニケーションがとれること。
?C将来のこと、例えば今後続発すると想定される東海地震、首都直下地震等の被災状況を予測し、その対策をデザイン(リスク管理)できること。
?D防災対策がいつも計画に留まっていてはいけない、実行が伴うこと。
?E非常時であり、経済的利益よりも、社会的利益を優先すること。
?F自助、共助、公助の観点から、ミクロからマクロまで調整する能力のあること。
?G地域の復興には、当該地域に骨を埋める覚悟の専門家の存在が必要です。
?H人は、何のために生きるのか、確固たる信念を持っていること。(私は孫のいる身ですが、後の世代のために生きていると考えています。)
?I最後に、死ぬことを恐れてはならない、命を賭してやらなければならない時もあると考えます。今まさに、現場で原発問題に対応している人々は、これにあたると考えます。
日本計画行政学会の関係で言うと、マネジメント・システムでは、PDCA(計画―実行―チェックー改善)ということが言われており、計画の整合性と実効性だけでなく、実行、チェック、改善の点でも、整合性と実効性が重要であると痛感されます。

速度制御された自動車・道路・近隣コミュニティによる脱・車依存社会への復興

  小栗幸夫(千葉商科大学政策情報学部)

● 提案の背景
1.自動車による震災被害の巨大化 わが国の交通は大量の自動車生産・保有・利用社会となり、被災地は典型的な自動車交通依存地域であった 。津波の被害にあった自動車は41万台にのぼるという推計もある 。被害にあった自動車は、衝突や炎上などによって津波被害を拡大する加害者ともなった。被災後の地域は、道路の分断や燃料不足の中で、孤立や物資不足などで復旧の困難に直面した。

2.平常時の巨大な自動車被害 自動車依存社会では平常時でも衝突が多発している。わが国では交通事故死者は減少しているが、事故数自体は年間100万件に近い水準にとどまっている。衝突による重症者や後遺症者は死者の7~10倍にのぼる。
 道路の自動車交通機能が重視された結果、沿道の人々が道路で会話を交わし、子どもや高齢者が外出することは危険となり、コミュニティの人間関係が希薄化している。自動車普及によって低密度の市街地が広がり、高齢者など買物困難者が増加している。
 復興によってこれまでの自動車依存社会が再現すれば、平常時の被害は避けられない。

3.自動車被害についてのオープンなディスカッションの不足 東日本大震災では原発事故が発生したため、世界規模で原子力政策が問い直され、政府‐企業‐学会‐メディアのムラ的関係が批判されている。この批判は、さらなる被害を未然に抑制し、新しい政策、産業、ライフスタイルの創出につながる。
 一方で、自動車と震災・津波の関連の議論は少なく、平常時の被害は、そのひとつひとつの大多数が1~数人の被害が小さく、日常化しているため、議論が十分ではない。自動車産業が関連素材部品産業、道路建設、不動産開発、金融、財政とつながって成長メカニズムのコアとなり、原子力と同様、ムラ的関係が存在していることも議論の不足の要因である。これは、新しい政策、産業、ライフスタイルの創出の障害である。

4.安全・高齢化対応・省資源・社会と技術の融合などの課題にこたえるモデルコミュニティの創出 WHOと世界銀行のレポート によると、2002年の世界の道路交通死者が約118万人、重傷者が2000~5000万人と推計される。衝突死傷をはじめとする自動車被害の克服は人類規模の課題である。さらに、わが国でも国際社会でも、人口の高齢化、資源の枯渇などへの対応が求められている。
 自動車産業の中心は欧米→日本→新興国と移動しており、過剰な自動車依存は経済・社会の活力を喪失させる。一方で、自動車の便益も大きく、被害を極小化し、社会と技術が融合したモデルコミュニティを創出することは、被災地の復興となり、また、世界への貢献ともなる。

● 脱・車依存社会への復興骨子
1.自動車への速度制御装置の搭載  モデルとなる復興コミュニティにおいて、既存の自動車に速度制御装置を搭載する。速度制御の段階は、歩行者速度(時速4、 6kmなど)、自転車速度(時速15、20kmなど)、中速自動車速度(時速30、40、50kmなど)、高速自動車速度(時速60、70、80、90、100kmなど)とする。速度制御装置は、既存に車に搭載するもの(追加型)と、新車に組み込まれるもの(組込型)がある。
 既存の車への速度制御の搭載の前の段階で、設定速度を表示し、設定速度を超えると点滅する速度表示装置を搭載する。速度表示装置はドライバーにも外部にも見えるものとする。速度表示装置は新車にも組み込む。速度表示装置は、ドライバーの心理によって、自発的に速度を抑制することをねらう。
 自動車に速度制御装置を組み込むモデルコミュニティは、大規模で多数であることが望ましいが、合意によって実現していくことが望ましく、後述する社会実験をおこなう小規模なコミュニティからはじめ、段階的に規模と箇所数を拡大していく。最終的には被災地、東北、全国、世界各国へと浸透させる。

2.道路の段階的構成と自動車の速度規制  道路を段階的に整備しその法定速度を段階的に設定する。以下がおおよその基準となる。
・近隣コミュニティ内道路(右図の地区分部路) 歩行者・自転車速度 最高時速4km~20km(自動車の進入禁止、通過禁止を含む)
・近隣コミュニティ間道路(同、地域分部路) 最高時速30km
・都市(複数の近隣コミュニティからなる)間道路(同、地域分部路) 最高時速40~50km
・自動車専用道 最高時速60~100kmなど   
 既成市街地では道路が段階的でなく、たとえば、都市間道路が近隣コミュニティを通過するなどの問題がある。この場合、より低い法定速度を設定する。

3.歩行と自転車利用の促進 近隣コミュニティの主要な交通手段を歩行と自転車とし、自動車速度を歩行者・自転車速度(時速4~20km)に制御・規制することで、それを支える。
 近隣コミュニティ間でも歩行と自転車利用を促進するよう、近隣コミュニティ間道路、都市間道路と歩行者・自転車道路の交差点では、自動車は一旦停止、あるいは、歩行者・自転車速度に制御・規制する。

4.公共交通機関の整備・利用促進 需要水準に応じた公共交通を整備する。需要が少ない場合、自家用車やタクシーの相乗り促進、バスの小型化、情報技術を活用したディマンドバスの運行をおこなう。後述する駅周辺開発の促進と一体化し、鉄道を復旧・復興する。

5.低密度開発を抑制する土地利用規制  住宅・商業・市民利用型公共施設を近隣コミュニティ内や近隣コミュニティからなる都市内に集積するよう、都市間道路(最高速度40km以上)沿道の開発を規制する。これまで大規模に進められてきた区画整理事業の見直し、原則廃止し、清算をおこなう。市街化調整区域内での公共施設(学校、病院など)の開発、道の駅などの政策を廃止する。人工規模と密度が一定水準となり、事業者がインフラ整備費を負担する場合のみ郊外型開発を認める。

6.公共交通(バス、電車)の駅を中心とした高密度開発 バス停車場を屋根で覆うなど環境の質の向上し、商業・公共施設を併設するなど機能性を高める。鉄道駅については、その地下・半地下化、電車がこない時間帯のプラットホームの平面結合、改札口の廃止(チケットの車内確認など)によって、鉄道駅とまちを一体化し、「駅裏」をつくらないことを原則に、鉄道駅周辺の高密開発をおこなう。駅と一体化した駐輪場や列車内持ち込み許可などで自転車利用を促進する。駅とその周辺に鉄道会社が保有する土地を一般事業者に放出し、不動産開発の機会をつくる。
 駅の位置を既存の位置と可能な限り一致させ、伝統的な中心市街地の活性化をはかる。公共施設を中心市街地に誘導し、税制や利子補給などにより大手商業資本などの中心市街地への誘導をはかる。

7.実現への道 以下の方法で脱・車依存社会への復興をはかる。
?@ 基本となる自動車速度制御については、その価値を市民が理解することが必要である。日本学術会議の提案 、内閣府の検討 、筆者の社会実験 などを基盤に自動車速度制御の社会実験をおこない、関心を高める。)
?A 特区制度を利用し、自治体レベルでモデルコミュニティを設定し、速度制御装置搭載。 速度規制の指定をおこなう。
?B 復興の推進のため、国レベルでの復興行政の一元化し、同時に、道州制を視野に地方分権を進める。
?C「運送車両の保安基準」「道路交通法施行令」の改定をおこなう。
?D 自動車への速度制御装置の搭載、法定速度の段階構成などの国際標準化をはかる。
   

<参考文献・資料>
日本経済新聞2011年5月30日 コラム 時流地流
小栗幸夫[2011] 「高齢社会の移動を支援するソフトカーの最高速度制御と表示システム」『計画行政』34(2)2 pp.17 ~22.?CICTCT特別ワークショップ
小栗幸夫[2010]「ソフトQカーを活用した小規模なスピード制御評価実験 ‐ その予備的試行の手続きと成果、および、政策的意義 ‐」『第10回ITSシンポジウムProceedings』
小栗幸夫[2009] 『脱・スピード社会』

復興状況に合わせた段階的地区区分の明確化

  浅見泰司、貞廣幸雄、石川徹、山田育穂、刀根令子、高橋一紀、鈴木崇之、岩本晃一、畠靖人、藤井純一郎(東京大学)

 市街地の復興に際して、地区区分を行い段階的な工程を示していくことが必要である。この際に、以下のような考え方をとることを提言する。
 地区区分に際しては、災害危険度、避難施設・経路の整備状況、他用途(危険施設など)との位置関係、建物の安全度、自律的な移動の容易さに関わる利用者状況に留意すべきである。この客観的な区分が緊急調査の基礎となる。
 建物と避難施設については、?@周辺から避難できる避難施設、?A建物内部避難が可能な建物、?B短時間に避難施設に避難が可能な建物、そして?Cそれ以外の建物(住宅、高齢者施設、大人数利用施設など短時間での避難が難しい用途は近隣に避難施設があっても?Bには含めない)という区分が重要である。復興の進捗に合わせて、建物区分が変化していく。これに連動して土地利用制限を変えていくことが適切である。
 津波、高潮、液状化などを含む災害の発生可能性が十分に低い(例えば、100年確率が低い、レベル1に対応)地区(A地区、図の緑色)においては、ほぼ従来同様の市街地の再構築を許可する。ただし、長期的には避難施設・避難経路を整備していく。
 災害の発生確率が一定期間(例えば、30年程度)は低い地区(B地区、図の黄色)においては、?@、?Aの建設は許可し、?Bは近隣に避難施設が整備されることを条件に許可する。?Cは近隣に避難施設が整備されることを条件に短期間(例えば、20年程度)利用を許可する。ただし、これは、将来的に防潮堤などの整備により、A地区に変更が可能な場合になるべく限定する。
 災害の発生確率が一定期間でも高い地区(C地区、図の橙色)では、原則として建物建設は禁止する。ただし、?@、?Aの建設はやむを得ない場合には許可し、?Bもやむを得ない場合に、短期間に限り許可する。許可する場合には、上と同様に将来的にA地区に変更できる場合に限る。
 防潮堤や避難道路などの整備に合わせて、A地区が広がっていき、次第に土地利用制限は緩和されていくことで、復興の進捗に合わせた段階的な市街地マネジメントが可能となる。また、今後、人口減少に伴いC、B地区を優先して市街化を抑制していくことで、コンパクトな市街地形成をはかっていく。

東日本大震災の復旧復興に向けた「提言」

  春日一郎(千葉市役所)

<東日本復興計画>
基本理念:ゼロベースでの「ふるさと」を官・民・地域が一体となって再生する。
復興計画における5つの大きな柱
1.地域コミュニテイの構築
2.被災者生活・就労支援
3.住環境の整備
4.コンパクトシティの構築
5.産業振興の支援

※従来型の平等主義的なバラマキ型公共事業ではなく、「選択と集中」型公共事業の執行

1.地域コミュニティの構築:地域の実に合ったコミュニティの構築は、地域住民とその地域をよく理解できる国・県の役人及びコンサルが不可欠
2.被災者生活・就労支援:被災地域復興作業において、一時的雇用としての就労支援を行うともに生活支援の実施
3.住環境の整備:早期に住環境を整備し被災者の非被災地域への住移転を抑制
4.コンパクトシティの構築:昔の街をただ単に復旧するのではなく、都市機能の集中を図るとともにインフラを整備し効率的な行政サービスの実現可能なコンパクトシティの構築
5.産業振興の構築:被災地である東北地方で、?@情報通信?Aライフサイエンス?B環境?Cナノテクノロジ・材料等の重点4分野の育成

〇復興計画のスキーム
復興→ゾーンニング→人が住む地域・人が住まない地域

地域住民の移住促進策の推進⇔一方で、先祖代々の土地から移住は困難 ・・・ここは住民の選択による・・・
曖昧なビジョンではなく、被災者の心に希望の持てる復興計画を!

復興に関するガバナンス強化のために~大学組織との連携システムづくり~

  三好勝則(工学院大学建築学部特任教授)

 東日本大震災で被害を受けた地域は、産業構造、住民構成などがそれぞれに大きく異なり、立地環境なども様々である。復旧復興に当たっては、各地域が持つ特性に応じた将来のビジョンづくりと事業方式の選択、実施状況の把握と修正など、総合的なガバナンスが必要とされる。
 市町村は、基礎自治体として、地域における課題に中核となって取り組み、民間を含めた地域の各主体との連携協力による課題解決を担うこととが期待されている。市町村合併は、市町村が組織、人材、財政基盤を強化することを目的として実施された。東日本大震災からの復旧復興に当たっても、住民の期待と要望が市町村に集まっている。
 しかしながら、東日本大震災で大きな被害を受けた地域では、市町村が蓄積してきたこれまでの知見だけでは十分ではないこと、被災者支援から復旧復興まで多彩な業務を同時に遂行しなければならないこと、市町村及び職員も被災して人材の不足が見込まれることなど、市町村には厳しい現状がある。
 以上のことを踏まえ、広範な知見を有し、人材を活用できる大学と市町村が連携して、復旧復興に当たることが、有効有益である。この場合の要件の第一として、連携の当事者は、大学教員個人ではなく、大学全体又は学部などの組織単位とする。これは、自然科学、社会科学の各分野ができるだけ多く関わることができるようにするために重要である。また、長期間が予想される復興について、組織単位とすることにより、継続性のある体制が取れることになる。要件の第二として、大学組織と市町村又は県が予め協定を締結する。協定において、お互いの役割を明確にし、協力する内容を明記する。協定に基づいて実施する事業については、地方財政措置などにより必要な財源が確保できるようにする。要件の第三として、地域の経済界、各種団体を含む協議の場を設ける。
 地域づくりや人事育成など、既に被災地域での実績がある大学又は学部等がある場合は、引き続き担当することが適当である。市町村において大学と連携した経験がない場合や現在適当な連携先がない場合は、国や県において、全国の大学との間で仲介できる体制を取っておくことも必要である。

ICTベースのマスコラボレーションのステップアップによる脱成長型の復興

  樹下 明(千葉商科大学)

 MIT Energy Survey 2002で73.9 %が10年以内に深刻な原子力事故があるとした。同時に、71.8%が原発のコストは高いと認識していた。
 今回の福島第1原子力発電所の事故は、多重防護の実態や危機対応の現実を通じて、原発の安全性と経済性についての疑念と懸念を否定できないものにした。原発の段階的廃止は避けることのできない方向となった。時間帯別の料金制度の導入が必要である。地域計画とライフスタイルの革新と統合された情報通信技術と結合した地域のトータルエネルギーシステムによる膨大な損失エネルギーの利用やスマートコミュニテイによる電力需給の効率化の戦略的重要性がたかまった。同時に、熱輸送を含む地域エネルギーシステムの有効化のためにコンパクトシティの追求が必要であり、ヒートアイランド防止のため都市緑化の促進も重要である。
 原発に偏重するバイアスの一つは過小な発電コストの算定プロセスにある。今回の事故にともなう膨大な賠償を考えれば、ここでいう算定プロセスの問題は小さいが、公表される原子力の発電コストには、廃炉費用、高レベル廃棄物処理費用、政府研究開発費、電源立地交付金などは含まれていないとみられる。規制に関わる情報の信頼性については、独立性、公開性、透明性によって厳しく保障されることが重要である。さらに、アメリカの原子力規制においてはテロ対策のため発電所警備隊や戦闘的演習をふくむ膨大な安全保障予算が組み込まれている。その他、連邦原子力安全規制における内部告発者保護制度の機能は注目に値する。なお、米国の原子力規制委員会(NRC)の職員数は4,211名にのぼっていることを忘れてはならない。
 迅速で民主的な復興計画の策定における住民参加は極めて本質的な課題である。この機会をさまざまなレベルで世界レベルで進化するシミュレーション・モデルをベースにICTを活用した熟議プロセスを軸にマスコラボレーションの展開の契機にすべきである。

復興コミュニティ・デザインを支える仕組みづくり

  小泉秀樹(東京大学都市工学科)

 市場が働きにくいなかで,かつ行政機能も低下している状況で,被災者救済や再生・復興に必要な事業(NPOや市民が行うnon-profit事業や,地元企業が行うforprofit事業の双方)を展開可能にすることと,集落単位でのきめ細やかな計画策定や復興まちづくりを支援する機能を担う組織的体制を構築することが必要不可欠だ。このようなコミュニティ・デザインの仕組みづくりは,被災地だけではなく今後日本の各地で必要とされる。

○地域再生まちづくり会社・まちづくりセンター:応急から仮設,そして本格復興への向かう各段階において,必要となるまちづくり事業,プロジェクトを担う組織(事業会社型),もしくは関連主体の支援を包括的に行う組織(支援センター型)を設立する。事業会社型か,支援センター型か,もしくは双方の機能を併置するかは,自治体の状況によって選択すればよい。また,行政設置型まちづくり会社・センター(公社),既存企業認定型まちづくり会社,NPO派生型まちづくり会社・センター(施設公設,運営民間)など各種のパタンが有ってよいし,集落単位で設置することもあるだろう。包括補助金や再生基金を原資とすることが想定される。

○統合的専門家派遣制度:まず自治体のプランニング・キャピタルを再生させることが必要となっている。空間戦略をまとめ、戦略に沿って行われるプロジェクトや事業の担い手づくりが必要不可欠である。まちづくり,高齢者ケア,情報支援など必要とされる専門家群を派遣する制度を,例えば,担い手育成支援事業等を発展させ,早期に実現する必要がある。

○再生基金の設立と投資減税:被災地の企業や復興・再生に必要な事業的活動を行う機構(=私企業に加えて復興・再生まちづくり会社やまちづくりセンター等)に融資を行うファンド(復興再生基金)を立ち上げ,このファンドに対する投資額に応じて,減税を行う制度などが考えられる。

○再生・復興まちづくり条例:再生・復興にむけた意思決定や総合的土地利用コントロールに対する権限,基金設定,支援機構などについて,各自治体の状況に応じた復興の仕組みを規定する条例の制定権を被災自治体に与える。

○被災地再生包括補助金:復興基本計画にそって柔軟に事業を展開するために必要。また,被災各地で立ち上がりつつある復興まちづくりNPOや今後設立されるだろう復興・再生まちづくり会社やまちづくりセンターが行う事業に対して,この包括補助金の一部を与えることなども考えられる。短期に行うモニター・評価を実施する仕組みと同時に導入したい。

震災復興を機に道州制の先行モデルへ

  坂野達郎(東京工業大学)

 3.11から3ヶ月立った現在も、生活再建のめどはいまだ立っていない。このような状況では、罹災された方々の一日も早い生活再建が望まれる。ただ、少子高齢化が進み、一旦グローバルなサプライチェンからはずれてしまうと産業と地域の活力を取り戻すことは、かなり困難が予想される。単に地域を元通りにするだけではなく、次世代に誇れる新しい社会システムを構築することが望まれる。早急な生活再建という短期目標と、次世代に誇れる新しい地域社会づくりという長期目標をうまく両立させるシナリオが求められている。
 地域の個性にあった地域主体の地域再生がひとつのスローガンになっている。そのため、復興特区を作ることが岩手県から既に提案されている。また、宮城県知事は、首都機能一部移転と道州制を視野に入れた改革を主張している。これに対し、福島県知事は、各地域の実情に合わせた復興に取り組んでいるさなかに、道州制を視野に入れるのは賛同できないと反対意見を表明したことが報じられている。  今回の震災は、単に被災地だけでなく現在の日本が抱えている問題を露呈させたように思う。地震と津波は、日本のどこにでもおきる可能性がある。分散ネットワーク型の国土の構造は、一極集中型に比べて、経済的にも、文化的にも、そして自然災害に対してもロバストな構造である。復興特区、復興院を作り、権限、財源をできる限り被災地に移譲することが望ましいのではないだろうか。また、できれば、国の地方部局は本省から切り離し、復興院の下部組織にすることも検討の視野に入れて良いのではないだろうか。さらに、復興院の決定に、岩手、宮城、福島の3知事が責任を持って関われるようにすることも大切である。この体制を道州制として定着させるか、広域連合の機能強化版にとどめるかは、復興が一段落してから考えればよいように思う。また、首都機能一部移転、副首都の建設を決定すれば、雇用を創出し、復興をより力づけることになるのではないだろうか。
 近く成立することになる復興基本法案では、復興庁が設置されると報じられている。復興庁が、省庁の壁を越え、地域のガバナンスのもとで運用されることに期待したい。

災害時の交通インフラの活用に向けて

  味水佑毅(高崎経済大学)

 東日本大震災の被災地でも、これまでの震災と同様、深刻なモノ不足が生じた。その要因として物流ネットワークの断絶があげられる。物流ネットワークは、交通をはじめとするインフラの整備水準を前提として形成される。それゆえ前提としているインフラが断絶してしまうと、送るモノ自体はあっても、届けることができなくなる。今回の震災では、国道45号線を中心とする太平洋沿岸の道路網、港湾そして仙台空港に大きな被害が生じた。これらの被害が物流ネットワークに与えた影響は甚大である。
 しかしながら、3月下旬までに、東北内陸部を走る東北自動車道と国道4号線を軸とし、そこから太平洋沿岸地域に至るルートが複数確保され、陸上輸送がかなりの範囲で確保されるようになった。
 この物流ネットワークの迅速な復旧は、関係者の苦労を厭わない作業のたまものであるとともに、これまで交通インフラを高密度に整備してきた結果でもある。近年、交通インフラについても、より効率的な整備を求める議論が根強く、その反面、特に地方部における道路等の無駄を指摘する意見もある。しかし、今回の震災は、交通インフラの冗長性が、このような非常時にいかに重要かを提示する機会となった。今後は、このような災害への対応力も交通インフラ整備の評価基準に含めていくべきだろう。
 それとともに、既存の交通インフラを最大限有効活用する工夫も重要である。この点に関して、今回指摘できる課題が、緊急交通路の指定の是非である。
 緊急交通路を走行する場合は、出発地の警察署が発行する「緊急通行車両確認標章」が必要であり、緊急交通路の指定が、被災地の外から被災地に向けた不要不急の交通を予防する効果は確かにあった。
 しかしながら、特に指定直後には、明らかに救援物資の緊急輸送にも関わらず詳細な書類の警察署への提出が求められるなど、緊急時の対応として効率的とは言えない対応も見受けられた。その一方で、緊急交通路に指定された東北自動車道の交通量は必ずしも多くなかったとの報告もあり、効率的な資源配分が行われたとは言えない。
 災害時における交通インフラは、被災地支援のための稀少な資源であり、その効率的な活用が求められる。それゆえ必要度の低い利用を制限することは必要だが、そのためのルールが、必要度の高い利用の制約要因になってはいけない。
 道路管理主体が緊急交通路の走行に関する許可を一括して管理でき、また、一定の基準を満たす貨物車については早期から標章の申請を不要とするような、より柔軟な仕組みづくりが求められる。

地域主体による持続可能な未来の選択~社会的共通資本としてのコミュニティの再興~

  風見正三(宮城大学事業構想学部事業計画学科 教授)

 2011年3月11日に発生した大震災と原発事故により、東北地方は、経済、社会、環境等の様々な側面から甚大なる被害を受けた。日本は、今こそ、これまでの都市計画や産業構造、エネルギーやライフスタイル、社会インフラやコミュニティの在り方等を総点検し、持続可能な未来に向けた改革の道を歩まなくてはならない。こうした大震災を乗り越えていくための重要な課題のひとつは、大震災によって集落自体が壊滅状態となった地域のコミュニティの再興である。東北は、農村、山村、漁村等の小規模な集落の集合体からなる地域であり、これらの地域のつながりを再構築していくことは、東北の歴史や風土を継承し、持続可能な未来を創造するための大きな鍵となる。こうした地域の結束力は、東北の社会・経済・文化的な価値を生み出す基盤であり、こうした住民の「絆」や「つながり」の集合体としてのコミュニティを「社会的共通資本(Social Common Capital)」として再認識し、その再興を行うことが重要となる。
 今回の大震災と原発事故は、自らの健康、安全な水や食糧、清らかな空気や大地等を守るためには、自らが、都市計画、国土計画、環境計画、エネルギーといった政策立案に対しても主体的に参画していくことが重要であることを示唆した。その際、持続可能な未来を選択する基本単位の存在が問われることになる。震災復興の基本は、地域の視点からの再生に他ならない。これから東北は大きな試練を迎えることになる。しかし、このような地域の存在の危機においても、豊かな歴史に培われたコミュニティの再興を果たすことができれば、そこから新たな産業が再生されていくことになる。そして、地域が豊かな自然環境や歴史文化を継承し、地域の未来を主体的に選択する原動力になっていくとき、持続可能な未来が現実のものとなっていくのである。地域がどのような未来を目指していくのか、信頼できる専門家の助言を受けながら、地域づくりの意思決定に積極的に参画し、地域の手で新しい未来を選択していくことが求められる。この大震災を乗り越えて、今こそ、多くの人々が新しい一歩を踏み出し、真の豊かさを享受できる持続可能な社会を実現していかねばならない。

識域の変化はどこに向うか

  原田博夫(専修大学)

 今般の東日本大震災は、少なくともわれわれ日本人が第二次世界大戦後に体験し想定してきた災害のうちで最大かつ空前のものだ。この激震を日本国民がどのように受け止め対応し克服するかが、いま問われている。
 人は、認識を共有できる過去の事例を参考にして判断・行動する。その意味では、1995年1月17日の阪神・淡路大震災は、もっとも具体的かつ近似的な先行例となる。地震の規模・タイプは異なるものの、その甚大さには共通するところが多い。加えて、人々の行動にも類似点が少なくない。たとえば、大災害後の人々の粛々とした行動は、こうした事態でしばしば無秩序な行動に走りがちな海外の事例と比べると、好対照である。そうした側面を強調して報道する海外メディアも少なくない。また、こうした事案が発生した時の政府・政治のトップはどうして、こうも不慣れ・不手際・不決断の連鎖に陥ってしまうのか。これらは、変化のない側面である。
 しかし同時に、人々の意識は大震災の後に大きく変わったように見える。かつてイギリスの財政学者ピーコック(A. Peacock)とワイズマン(J. Wiseman)は、共著The Growth of Public Expenditure in the United Kingdom, Princeton Univ. Press, 1961.で、1890年代以降のイギリスの財政支出の長期動向を時系列的に分析し、経費膨張の経験則を引き出した。とりわけ戦争などの社会変動の時期に公共支出の比率は一挙に上昇し、戦後の平時になっても元には復さず、高水準を維持することを導出し、それを転位効果(displacement effect)と呼んだ。さらに彼らは、その原因を人々の識域(threshold)の変化に求めた。つまり、人々の意識の変化が、新しい状況を受け止めてしまう素地となっている、と推論したわけである。
 こうした人々の意識メカニズムが今回の大震災でも働くとすれば公共支出の拡大につながるが、近年のNPO、ボランティア活動の普及が本物だと見れば、ピーコック・ワイズマンの推論は当てはまらなくなる。いずれにせよ、人々の意識がいずれの方向に向いているかの見極めが、増税あるいは復興債といった財源の問題にも関わってくる。
 私の理解では、この大震災・津波・原発事故を経て、少なくともこれからの人々は、日本の経済社会を拡大・成長路線に戻そうとする意向は減少するであろう。資源・エネルギー制約を強く意識し、その有効活用を志向するのではないか。つまり、資源・エネルギーを大量消費する経済・生産構造ではなく、省エネルギー型のライフスタイルや市街地構造を是とする意識・価値観が芽生えてくると推測する。さらに具体的にイメージすれば、職住接近で田園都市型の住宅構造・居住スタイルを、人生のどこかの段階で選び取る生き方が、かっこいいとされる時代が来るかもしれない。この状況下では、過剰な物流も逓減することになり、1950年代以降これまでに形成・蓄積されてきた各種の社会インフラを、丁寧にメンテナンスするだけで、十分な公共投資量になるばかりか、社会全体としての管理技術などのソフト面の改善・向上につながる。
 このように社会全体が簡素化・スリム化すれば、少なくとも政府支出の拡大などは安易に指向すべきではなく、したがって、国民への財政負担にしても、やみくもに増加を求める状況にはない。その意味では、かつてピーコック・ワイズマンが経験則として導出した、20世紀中葉までの、公共支出の拡大傾向は再現することはない。むしろこれからの日本では、税負担の中身すなわち所得税・法人税・消費税・資産課税の負担構造を見直すことや、国税と地方税の負担配分に見直し、あるいは、税と公債の適切な仕切り、さらには、公共サービス・税と社会保障制度・負担のバランスなどを根本的に検討し直すことを、国の進路を決める不可欠の論点として登場させなくてはならない。

東日本大震災の復旧復興に向けた「提言」

  小川剛志(木更津市都市整備部)

《被災地への早期提言》
提言1 仮設住宅の居住性をもっと充実させよ!
 ・仮設住宅を単なる寝る場所ではなく、商店や医療施設なども立地させ、暮らす場として居住機能を充実すべき。
 ・居住者の生活・コミュニティも支援を継続すべき。
提言2 被災地の働く場をもっと増やせ!
 ・被災者の生活再建のため、瓦礫の撤去や処理、土木・建築などの復興関係の仕事など働く場を確保すべき。
提言3 被災地に廃棄物処理プラントを設置せよ!
 ・災害で生じた瓦礫を一刻でも早く処理するための廃棄物処理プラントを作り、被災者の働く場にすべきである。

《復興に向けた提言》
提言4 専門家による復興計画素案を早期策定せよ!
・防災・都市計画等の専門家により復興計画の素案を検討し住民に提示、復興の青写真を早期に示すべきである。
提言5 復興に係る法令の規制緩和・調整を簡素化せよ!
 ・復興計画の早期決定のため、関連法令の規制を緩和するとともに、調整事務を簡素化すべきである。

《安心な国土づくりの提言》
提言6 一極的な発電から分散的な発電へ!
 ・原子力から自然エネルギーへの転換を進め、一極的な発電から、各地域・家庭での分散型の発電に転換すべき。
提言7 東京の行政・経済機能の分散とバックアップを!
 ・東京への一極集中した機能の分散を図るとともに、有事の際のバックアップ機能の地方立地を進めるべきである。
提言8 新たな自治体同士の連携を!
 ・日ごろから、他のブロックの自治体との連携づくり(絆づくり)を行い、有事の際の支援体制を確立すべきである。

シェアリングセンター

  落合太郎(九州産業大学 教授)

 近年の節電ニーズの流れを受けて、これまでのエコロジカルな暮らしへのベクトルが一層現実味を帯び、トレンドという線的な流れを超えた面的な広がりを持った価値観へと浸透しているようだ。定期検査中の原発が再稼動できなければ来年5月には全て停止する。知識としての省資源マインドの実行から、必要に迫られたケチケチ・エネルギー管理、さらには耐乏生活の予感すら覚悟の範囲に入ってきた感がある。
 そこで若者を中心に広がりを見せている「シェアリング」の日常概念を、災害時における非日常概念に反転しながら拡大発想することが、ひいては防災意識の醸成にとって有効ではないか、という仮説を考えた。シェアリングとはたとえば、高級車の保有が人生の成功の象徴として意味を成さず、機能として走りさえすれば良いし駐車場の複数の車を共有しTPOで選べればもっと便利という価値観。
 日頃から高齢者と小学校児童との歴史学習体験や音楽交流が実行され文化をシェアしているフィラデルフィアの事例もある。また要らなくなったものを譲り合い共有する習慣があれば、いざという時に社会的連帯が機能する。地域の食文化に関するイベントを介して顔見知りとしてなっておりさえすれば、非日常時においても役割と情報の伝達もスムーズに動く。
 都会にも半世紀近くを経過した住宅地などに超高齢者が住まう町があり、集会所、公民館を利用した各種文化的な集いが活発だ。また農魚村などの地帯でも廃校となった高台の小学校を日頃から利活用すれば、シェアリングをテーマとして地域コミュニティ空間づくりが可能であろう。広まるシェアリングの行き着く先を防災拠点として位置づけておくのが、日常と非日常の新しい接点空間となり得るのではないだろうか。


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